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第3話 夜会の片隅で咲く白銀

Penulis: けもこ
last update Tanggal publikasi: 2026-07-09 00:10:14

広間で夜会が開かれている。

奥の子供部屋で子どもたちにお話を聞かせていると、遠くで、享楽的な笑い声と楽団の奏でる音楽が聞こえてきた。

「ねぇねぇ、ロッティ、僕はいつになったら夜会に出られるの?」

もうとっくに眠ってしまったブルックの隣でブルーノが顔をこちらに向けて聞く。

「そうね、一度学校へ行ってたくさんお勉強をしてからかしら」

「学校、行きたくないな。ロッティと離れるんでしょ?嫌だ」

そう言って悲しそうな顔をする。

ローティシアは笑顔を作って、ポンポンと布団の上からお腹の辺りを優しく叩いた。

「でも、学校にはたくさんお友達がいるわ。それにブルーノはとてもラッキーよ。他のお友達はみんな一人ぼっちでやって来るのに、あなたはブルックと二人だわ。寂しくなんてならないもの」

子どもたちは今5歳。あと3年すれば貴族のための寄宿学校に入ることになっている。

「私は、幼年学校から寄宿舎に入ってとても寂しかったんだ。ここにはローティシアもいるし、急ぐことはないじゃないか」

子どもたちを、高位貴族が集う寄宿舎に早く入れようと焦るアビゲイルを、クロードはこう言って宥める。

ローティシアの祖父、クロードの父である前グーテローワン伯爵は、厳しく冷たい人物であったようだ。

その性質は嫡男であったローティシアの父の出奔でさらに頑なになり、クロード達の母(ローティシアの祖母にあたる)にも随分とひどい振る舞いであったらしい。彼女は気を病み、クロードが寄宿学校にいる間に病で亡くなった。

ローティシアは、子ども達が寄宿学校に入学したら、紹介状を書いてもらい、当初の目的通り修道女になろうと思っている。その約束もクロードとちゃんと交わしている。

気づけばさっきまで話しかけていたブルーノは、スゥスゥと寝息を立てていた。その可愛い寝顔に思わず笑みを漏らし、シーツを子どもたちの肩まで掛け直して、ランプの火を落とし部屋を出た。

◇◇◇

セオドアは、アビゲイルから女性たちを紹介され、何人かの女性とダンスを踊り、それとなく人となりのわかる程度の会話をした。

とにかく、こうした場にいる女性の話というのは、実がなくて面倒臭いというのが本音だ。

しかし、まぁ、これも仕事だと思えばにこやかに対応できる。貴族の習性は、嫌と言うほど身に沁みついているから。

シェリーグラスを片手に、目の前の女性の話に微笑みながら相槌を打つ。

「閣下は、年にどのくらい帝都でお過ごしですか?」

「夏の社交シーズンの間だけですね。今は軍の駐屯地を自分の領地の近くへ移転したので、一年のほとんどが辺境領での生活です」

「まぁ、そうなんですのね。辺境領は冬は寒いと聞きますわ。冬の間は帝都でお過ごしになるというのはお考えになりませんの?」

「それはできませんね。冬は領地から出ることも難しいですから、辺境を守ろうと思ったら冬場はそこから動けません」

「まぁ‥‥」

辺境での生活が、思う以上に厳しいと感じたのか、目の前の女性は、少々がっかりした表情を扇子で隠そうとした。

しかし、その辺りをうやむやにはできない。

大袈裟ではなく、冬に辺境から出ることも、ましてや外から来ることもそう簡単ではないのだ。

クロードがやってきて、葉巻を口実に女性たちの中から引っ張り出してくれた。

「どうだ?お前の条件に合うような令嬢は見つかったか?」

「どうだろうな。やはり辺境領で長く過ごすというのは、なかなか若い令嬢には難しいのだろうな。とはいえ、そこは譲れないのだ。まぁ、気長に探すよ」

テラスから庭を眺めていると、以前にここを訪問した時に子どもたちの世話をしていた子守が、向かいの回廊をランタンを片手に歩くのが見えた。

白と銀の中間くらいの髪の色は、隙なくまとめ上げられている。ランタンの灯りに銀の髪が浮き上がって見えた。

流行おくれの、首元まで詰まったゆったりとした灰色の服を来て、応接室の入り口に立っていた姿は、どこか遠くを見ていて、1人だけ違う世界にいるようだった。

服装はずいぶんと時代遅れだが、よく見れば随分と若いことがわかる。

娘は大きな歩幅で背筋を伸ばして回廊を歩いて行くと、角を曲がって建物の奥へと消えていった。

「随分と‥‥若い子守を雇っているのだな。双子だから子守に体力が必要ということか?」

消えていく彼女の姿を見ながら、思わずそう発していた。

「ん?なんだ、何の話だ?」

「お前が雇っている子守だよ。随分若いと思ってな。でも、よく子どもたちが懐いているようだから、いい仕事をしているんだろうな」

クロードは、一瞬なんのことかわからず考えていたが、あぁ、と思い当たったようだ。

「ローティシアのことか。あの子は使用人ではないよ。テオ、覚えているか?ちょうど、中等科に上がった頃に、私の兄が継承権を捨てて家を出ただろう? だから私がこの家を継ぐことになった。あの子はその兄の娘なんだ。私の姪だよ」

「預かっているのか?今日の夜会に出ていないのは何故だ?まだデビュー前なのか?」

「いやいや、訳あって社交界には出ないんだ。彼女が生まれる前に兄が事故で亡くなってしまってね。ずっと孤児院で暮らしていたんだよ。私も知らなくてね」

「ほう‥‥なるほど」

セオドアは、彼女の姿を思い浮かべながら短く返した。

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